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東京地方裁判所 平成11年(ワ)18949号 判決

東京都渋谷区神宮前三丁目二二番一〇号

原告

有限会社ノーウェア

右代表者代表取締役

長尾智明

右訴訟代理人弁護士

安田有三

名古屋市中区大須三丁目二五番三一号

被告

株式会社コメ兵

右代表者代表取締役

石原司郎

右訴訟代理人弁護士

後藤武夫

主文

一  被告は、原告に対し、金五〇〇円及びこれに対する平成一一年九月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告の負担とする。

四  本判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙被告標章目録1及び2記載の標章を使用して、衣料品を販売してはならない。

二  被告は、別紙被告標章目録1及び2記載の標章を付した衣料品を廃棄せよ。

三  被告は、別紙被告標章目録1及び2記載の標章を付した宣伝広告物、定価表、取引書類を含む営業用品一切を廃棄せよ。

四  被告は、原告に対し、金九〇〇万円及びこれに対する平成一一年九月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告は、洋服の製造販売、卸売、小売及び輸入等を目的とする有限会社である。

被告は、古物の販売等を目的とする株式会社である。被告は、「AMAPOLA」等との営業表示を用いて、古物を買い取り、買い取った古物を販売することを業としている(弁論の全趣旨)。

2(一)  原告は、次の商標権(以下、この登録商標を「本件第一商標」といい、右商標に係る商標権を「本件第一商標権」という。)を有している。

登録番号 第四一二五八二八号

出願日 平成八年九月三〇日

登録日 平成一〇年三月二〇日

指定商品 洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、水泳帽、帽子、バンド、ベルト、靴類(「靴合わせくぎ、靴くぎ、靴の引き手、靴びょう、靴保護金具」を除く。)

役務の分類 第二五類

商標 別紙商標目録一記載のとおり

(二)  原告は、次の商標権(以下、この登録商標を「本件第二商標」といい、本件第一商標とあわせて「本件商標」という。また、本件第二商標に係る商標権を「本件第二商標権」といい、第一商標権とあわせて「本件商標権」という。)を有している。

登録番号 第四一二五八二九号

出願日 平成八年九月三〇日

登録日 平成一〇年三月二〇日

指定商品 洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、水泳帽、帽子、バンド、ベルト、靴類(「靴合わせくぎ、靴くぎ、靴の引き手、靴びょう、靴保護金具」を除く。)

役務の分類 第二五類

商標 別紙商標目録二記載のとおり

3  原告は、本件商標の付されたTシャツを販売している(以下、原告の製造販売している本件商標の付されたTシャツを「本件商品」という。)。

4  被告は、別紙被告標章目録1及び2記載の標章(以下、右目録1記載の標章を「被告第一標章」、同目録2記載の標章を「被告第二標章」といい、これらをあわせて「被告標章」という。)が付されたTシャツを、本件商品の古物として販売している。

5  被告は、雑誌「ASAYAN」平成一一年四月号、雑誌「COOL」同年五月号及び雑誌「BOON」同年五月号に、被告の広告を掲載したが、右広告には、「A BATHING APE」という記載がされていた(以下、右広告を「本件広告」という)。

6  本件第一商標と被告第一標章、本件第二商標と被告第二標章、本件第二商標と右広告中の「A BATHING APE」という記載は、それぞれ類似している。

二  本件は、本件商標権を有している原告が、被告に対し、(1)被告が販売している被告標章の付されたTシャツの一部は本件商品の偽造品であるから、右販売行為は本件商標権の侵害に当たる、(2)本件広告に「A BATHING APE」の記載をする行為は、本件第二商標権の侵害に当たり、かつ、不正競争防止法二条一項一号及び二号の不正競争行為に該当すると主張して、被告標章を使用して衣料品を販売することの差止め等を求めるとともに、右の各行為による損害の賠償を求める事案である。

第三  争点及びこれに関する当事者の主張

一  争点

1  被告が本件商品の偽造品を販売し又は販売のために展示したか。

2  本件広告に「A BATHING APE」の記載をする行為が、本件第二商標権の侵害又は不正競争行為に当たるか。

3  損害の発生及び額

二  争点に関する当事者の主張

1  争点1について

(原告の主張)

被告は、平成一〇年八月二六日から平成一一年八月二五日までの間に、被告標章の付されたTシャツを少なくとも二〇〇〇枚販売したところ、そのうち半分が本件商品の偽造品であったと推測される。

(被告の認否)

被告が平成一一年八月二五日までに一〇〇〇枚程度の本件商品の古物を販売したことは認めるが、本件商品の偽造品を販売したことは否認する。ただし、原告の代表者らが、平成一〇年一〇月一〇日に被告の名古屋店を訪れた際、被告に対し、右店舗の店頭に本件商品の偽造品が一枚あると指摘したため、被告は、これを店頭から撤去したことは認める。

2  争点2について

(原告の主張)

(一) 被告の広告に、本件第二商標と類似の標章を記載することは、原告が築き上げた品質保証機能、宣伝広告機能を潜用するものであるから、本件第二商標権を侵害する。

(二) 本件第二商標は、著名な原告の商品表示かつ営業表示であるから、本件第二商標と類似の標章を被告の広告に使用する行為は、不正競争防止法二条一項二号の不正競争行為に該当する。

(三) 本件第二商標は、原告の商品又は営業を表示するものとして、需用者の間に広く認識されている。

被告が、本件第二商標と類似の標章を被告の広告に使用すると、原告と被告が関連していると誤認されたり、被告の扱う右標章を付した商品は、あたかも原告が真正商品と認めた中古品であると誤認されるおそれがある。

したがって、本件第二商標と類似の標章を被告の広告に使用する行為は、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当する。

(被告の主張)

本件広告は、被告が本件商標を付したTシャツを高値で購入するという内容の広告であり、原告の商品を原告の商品として購入すると表示しているにすぎないから、右広告の記載は、原告の商標権を侵害しないし、また、不正競争行為にも該当しない。

3  争点3について

(原告の主張)

(一) 本件商品の偽造品の仕入れ値は一枚二〇〇〇円、販売額は一枚一万円であるから、被告は、一枚につき八〇〇〇円の利益が得られた。したがって、被告は、本件商品の偽造品を扱ったことにより、少なくとも八〇〇万円の利益を得た。

(二) 被告が平成一〇年八月二六日から平成一一年八月二五日までの間に販売した本件商品の真正品は、本件広告を使用して販売したものである。

原告が本件広告について受けるべき使用料の額は、本件商品の真正品の販売額の一〇パーセントとするのが相当である。

被告は、一枚の販売額が一万円である本件商品の真正品を過去一年間に一〇〇〇枚販売したから、その損害額は一〇〇万円になる。

(被告の認否)

損害の発生及び額については争う。

第四  当裁判所の判断

一  争点1について

1  弁論の全趣旨によると、原告の代表者らが、平成一〇年一〇月一〇日に被告の名古屋店を訪れた際、被告に対し、右店舗の店頭に本件商品の偽造品が一枚あると指摘したため、被告は、これを店頭から撤去したことが認められるところ、被告は、右商品が偽造品であることを積極的に争っておらず、また、右商品が偽造品でないことを示す証拠もないことからすると、被告は、右同日、本件商品の偽造品を一枚右店舗の店頭に販売のために展示していたものと認められる。

2  証拠(甲一四ないし一八、二五、二六、三一ないし三三(以上の書証については枝番をすべて含む))と弁論の全趣旨によると、平成一〇年八月より前から、本件商品の偽造品が日本国内に流通していたこと、原告は偽造商品対策室を設けて、偽造品の調査、摘発に当たっていたこと、以上の事実が認められるから、被告が中古品として買い取って販売したものの中に、右の一枚以外に偽造品が含まれていた可能性を否定することはできない。

しかし、弁論の全趣旨によると、被告は、古物商として、買い取る品物の真贋の判定には日頃から注意し、偽造品を扱うことがないようにしていたものと認められる。また、原告は、右のとおり偽造商品対策室を設けて調査、摘発に当たっていたのであるが、それにもかかわらず、被告について右の一枚以外に具体的に偽造品と指摘することができたものが存したとは認められない。これらのことからすると、被告が、右の一枚以外に本件商品の偽造品を販売し又は販売のために展示したとまで認めることはできない。

他に、被告が、本件商品の偽造品を販売し又は販売のために展示したことを認めるに足りる証拠はない。

3  以上のとおり、被告が、右の一枚以外に本件商品の偽造品を販売し又は販売のために展示したとは認められない上、右の一枚についても、原告代表者らの指摘によって店頭から撤去したこと、被告は、古物商として、買い取る品物の真贋の判定に日頃から注意していることからすると、被告が将来において、本件商品の偽造品を販売し又は販売のために展示するおそれがあるとは認められない。

二  争点2について

被告が雑誌「ASAYAN」平成一一年四月号、雑誌「COOL」同年五月号及び雑誌「BOON」同年五月号に被告の広告を掲載したことは当事者間に争いがないが、証拠(甲二七ないし二九)と弁論の全趣旨によると、右広告は、上方に、「WE BUY」「PREMIUM」の文字が横書きで大きく二段にわたり記載され、その下に、「A BATHING APE」と横書きで記載されていること、右記載に続き、アルファベット表記の衣料品のブランド名が横書きで数行にわたって記載され、その下に、横書きで、「上記ブランドは、特に高額にて買取させていただきます。」と記載されていること、右記載の下方に、横書きで大きく、被告の営業表示である「AMAPOLA」の記載がされ、更にその下に、「高価現金買取専門店」との記載や、宅配便による古物の送付の方法、被告の店舗において直接古物を買い取る方法についての記載があること、以上の事実が認められる。

右事実によると、本件広告は、本件商品などのブランド商品について被告が買い取ることを広告したものであり、右広告中の「A BATHING APE」の記載は、被告が原告の商品の古物を買い取る旨を記載しているものであって、本件広告に接した者は、そのことを容易に認識することができるものと認められる。

そうすると、本件広告中の「A BATHING APE」の記載は、商標として使用されたものとは認められないから、右記載をする行為が本件第二商標権を侵害することはない。

また、右記載は、被告が自己の営業又は商品の表示として用いたものとは認められないから、右記載をする行為が、不正競争防止法二条一項一号又は二号の不正競争行為に当たることもない。

三  争点3について

1  右一認定の被告が本件商品の偽造品を販売のために展示した行為は、本件第一商標権及び本件第二商標権を侵害する行為であるところ、被告には右侵害行為について過失があったものと推定される(商標法三九条、特許法一〇三条)から、被告は、右侵害によって原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

2  右一認定のとおり、被告は、右偽造品を撤去したのであるから、それを販売したとは認められない。したがって、被告が右偽造品の販売によって利益を得たとは認められない。

そうすると、原告の損害額は、原告が、被告の右偽造品の展示行為に対して受けるべき対価の額によって算定するのが相当であるところ、弁論の全趣旨によると、本件商品の古物の一枚の仕入れ値は二〇〇〇円程度、販売価格は一枚一万円程度であることが認められ、この事実に諸般の事情を考慮すると、右対価の額は、五〇〇円と認めるのが相当である。

四  右一のとおり、被告が将来において本件商品の偽造品を販売し又は販売のために展示するおそれがあるとは認められない上、本件広告に「A BATHING APE」の記載をした行為が本件第二商標権の侵害又は不正競争行為に当たるとは認められないから、本件請求のうち、衣料品販売の差止請求、衣料品及び営業用品の廃棄請求並び本件広告に右記載をした行為が本件第二商標権の侵害又は不正競争行為に当たることを理由とする損害賠償請求はいずれも理由がない。

本件請求のうち、偽造品の販売、展示を理由とする損害賠償請求は、金五〇〇円及びこれに対する平成一一年九月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

五  以上の次第で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 岡口基一)

別紙

被告標章目録1

左記図柄の標章

〈省略〉

被告標章目録2

「A BATHING APE」を横書きしてなる左記標章

〈省略〉

別紙

商標目録

〈省略〉

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